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アイヌ語新聞「アイヌタイムズ」の記事

(第19号、2001年(平成13年)9月20日(木)アイヌ語ペンクラブ発行 6〜9ページ引用)

「イケマ」

ikema

1. 赤字は、アイヌ語です。

2. 赤字のイタリック文字は、日本語です。相当することばが、アイヌ語にありませんでした。

3. 山形記号「^」は、日本語の長母音を示しています。

4. 版権は、アイヌ語ペンクラブにあります。


イケマは、匂いが強いので、悪い神も流行り病もそれを嫌がると言われています。イケマをかんで病人に向かって吹いたり、家の中で吹いたり、首から下げたりしました。
ikema hura ruy pe ne kusu, wen kamuy ka pakor kamuy ka emaka sekor a=ye. ikema a=kuy wa siyeye kur eun a=ewar ka ki, cise or ta a=ewar ka ki, a=rekuci orowa a=racitkere ka ki.

知里真志保さんは、次のように言いました:「イケマは、「カムィ・ケマ(神の足)」だろうと思います。草の根は、「そのケマ(草の根)」を言い表わすこともあります。」
Tiri Masiho nispa ene hawean hi: "ikema anakne "kamuy-kema" ne nankor
sekor ku=yaynu. kina sinrit 'kema' sekor a=porose hi ka an."

イケマは、「シンリッ(根)」とか、「ペヌプ(汁を持つもの)」とか言い表すところもあります。
ikema anakne "sinrit" neya "penup" neya a=porose hi ka an.

その根を切ると乳のような汁がしたたるので、ペヌプ(汁を持つもの)と言われています。
sinrici a=tuye yakun topehe cik kusu penup sekor a=ye.

川上まつ子さんは次のように言いました:「うちのおっかあたち風邪でもひいた時なもんだか、イケマを刻んで家の中で吹いたりしたのを見たことがある。わしら小さかった頃は、ポンプクル(pon pukuru 小袋)さ、おっかあが、スルククスリ(surkukusuri ショウブ)とかイケマとか入れて、首から下げらしてくれたもんだ。15、6頃まで、それ首に下げらしたもんであったよ。イケマやスルククスリは、ハコ オロ アオマレ(棺桶に入れる)したら、アナンシリ(死者)持っていくポンプクルだの入れてしまった。」
Kawakami Matuko katkemat ene hawean hi: "ku=kor hapo k=omkekar hi ta ikema tata wa cise or ta ewar siri ku=nukar amkir. ku=pon i ta, ku=kor hapo anakne, pon pukuru or surku-kusuri neya ikema neya omare wa ku=rekuci orowa racitkere ruwe ne. asikne pa ikasma wan pa, iwan pa ikasma wan pa ku=ne hi pakno, newaanpe racitkere ruwe ne. ikema, surku-kusuri hako (kan'oke) or a=omare hi ta, anansir kor pon pukuru or a=omare ruwe ne."

イケマを焼いたり、煮たりして、食べましたが、親指くらいものを2つも食べると中毒を起こしたので、警戒したと言われています。大きいものは、5cmほどに太くなり、50cmくらい長くなります。
ikema a=ma ka ki, a=suwe ka ki kane a=e korka, ruweaskepet pakno an pe tup a=e yakun iyoski=an kusu, yaitupare sekor a=ye. poro hike 5cm pakno ruwe wa 50cm pakno tanne ruwe ne.

青木愛子さんは次のように言いました:「老婆がイケマの根塊を黒く焼いてかじっているのを見たことがあります。老人は長生きのための薬だと言っていました。」
Aoki Aiko katkemat ene hawean hi: "huci ikema ma wa kunnere wa e siri ku=nukar amkir. huci anak, 'tanpe kusuri ne k=e yakun, ney ta pakno ku=iwanke' sekor ye."

萱野茂のアイヌ語辞典には、次のように書かれています:「イケマを焼いて食べる時、あまり多く食べるとそれによって酔っぱらったようになり、ふらふらして、時にはそれで死ぬこともあるそうだ。」
Kayano Sigeru no Aynugo-ziten or ta ene kampinuye hi: "ikema a=ma wa a=e hi ta eytasa a=e kor kusu iyoski=an wa a=ekoca kunine an kor a=ekot pe ne yak a=ye."

この毒の元は、シナンコトキシンといわれるものだそうです。これは、飲むと心臓がよくなるものだと言われています。また、それでうまくおしっこをするものだと言われています。
ne surku motoho Sinankotokisin sekor a=ye p ne hawe ne. newaanpe a=ku kor, kusu sampe pirka p ne yak a=ye. orowano, kusu pirkano okuyma=an pe ne yak a=ye.

イケマは、「Cynanchum caudatum(クュナンクム カウダトゥム)」という学名です。「Cynanchum(クュナンクム)」のことばの意味は、「犬を殺すもの」です。日本ではイケマ(カモメヅル属、ガガイモ科)という名前です。
ikema anakne "Cynanchum caudatum" sekor gakumei an. "Cynanchum" itak'ipe anak "seta rayke p" ne. sisam or ta ikema (kamomeduru-zoku, gagaimo-ka) sekor re an.

イケマは、ヤワニ(南千島)やアイヌモシリ(北海道)、日本、中国にも生えているものです。山に生えるもので、ツタになります。7、8月に花が咲き、8、9月に実がなります。
ikema anak yawani (Minami-tisima), aynumosir (Hokkaido), Nippon, Tyu^goku or us pe ne. kim un us pe ne wa, punkar ne ruwe ne. 7, 8 cup or ta nonno o wa 8, 9 cup or ta numus ruwe ne.

「知里真志保 分類アイヌ語辞典」には、こう書かれています:
"Tiri Masiho Bunrui-Aynugo-Ziten" or ta ene kampinuye hi:

イケマは、お腹が痛い時に、少し噛んで飲んだものです。
ikema anak a=honihi arka hi ta ponno a=kuy wa a=ku p ne ruwe ne.

頭が痛い時は、焼いて布に包んで、頭に巻きました。
a=sapaha arka hi ta a=ma wa senkari ani a=kokari wa a=epanu ruwe ne.

目の病気を直すのに、寝る前に噛んで、まぶたにつけました。
sik siyeye a=pirkare kuni hotke=an etok ta a=kuy wa a=sikkapuhu kasi a=usi ruwe ne.

煎じて煮出し汁を濃くして、それから、傷を洗うと、化膿しませんでした。
a=popte wa uwe nupur kor orowano, a=pirihi a=huraye yakun yenu ka somo ki.

歯が痛む時は、これを噛みました。
a=nimaki arka hi ta newaanpe a=kuy ruwe ne.

美幌では種の表面に付いている綿を取って、どこかが傷ついた時に薬にしました。
Peporo (Bihoro) or ta piye kurka us wata a=uyna wa, neoro ka a=piro hi ta kusuri ne a=kar.

日本では、乾いたイケマは、牛皮消根(ごひしょうこん)と言われるもので、同じように薬にするものです。
sisam or ta, sat ikema gohisyo^kon sekor a=ye p ne wa, uneno kusuri ne a=kar pe ne.

イケマの中にプレグナン配糖体、キナンコサイドC2と言われるものがあります。これは、抗腫瘍性や免疫増強作用もあるものだと言う人がいます。
ikema or un, puregunan-haito^tai kinankosaido-C2 sekor a=ye p an. newaanpe anakne, ko^syuyo^sei ka men'eki-zo^kyo^-sayo^ ka kor pe ne, sekor ye kur an.



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