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国際語エスペラントとエスペラント運動について
 エスペラント語は、1887年に当時のロシア領ポーランドの眼科医ザメンホフによって考案され発表された国際共通語です。彼は、当時のヨーロッパにあって言語の違いなどでますますひどくなる民族対立をみて、誰にもやさしく学べてしかも豊かな表現が可能な国際共通語が、民族や国家間の平和と文化の発展のために必要だと考えたのです。

 その後二度の世界大戦で大きな打撃をうけながらも、エスペラント運動は発展してきました。発表から一世紀以上を経て、百数十カ国全世界で約百万人の人々がエスペラントを用いて旅行や文通を楽しんでいます。また年間数百点にのぼるエスペラント図書が出版され、定期刊行物も数十を数えます。こうした活動は、国連のユネスコでも評価され1954年と1985年のユネスコ総会でエスペラント語に関する決議が採択されています。そして世界エスペラント協会はユネスコと協力して活動しています。毎年一度行われる世界エスペラント大会には、世界中から数千人もの人々が集まり、さまざまなテーマについてエスペラントで話し合います。1996年のチェコ共和国プラハで行われた世界大会では、平等で民主的な国際的なコミュニケーションの発展のために必要な原則について、エスぺランチストの考えをあきらかにし、プラハ宣言として発表し、全世界の人々に真剣な検討を求めています。

 エスペラントについては、(財)日本エスペラント学会の解説も参考にしてください。


エスペラントのあれこれ


 水野義明氏によれば、エスペラントは、発音については、母音は、スペイン語、イタリア語、(日本語(!))にほぼ同じです。子音は、英語にいちばん近いです。
アクセントの位置ではスペイン語やイタリア語と同じです。
全体として、耳で聞いた感じでは、スペイン語のような印象です。
 語彙の大部分は、ヨーロッパの主要言語から採用したものです。

 D.B.グレガーの研究によれば、創始者ザメンホフがはじめに制定した基本語彙2612個の語根のうち、(少数のギリシア語由来や人工語彙を除いて)純スラブ系(ロシア語など)は29個、純ゲルマン系(英・独語)は、326個、純ラテン系(仏・西・伊語)は、861個、ラテン系由来のゲルマン系は、663個となります。つまり、ラテン・ゲルマン系が合計1850個で全体の66%を占め、西洋的性格が明瞭です。

 しかし、構文という点では、比較的自由な語順や無人称構文の用法などで、むしろスラブ語に似ているとも言えます。

 最後に、言語の構造から見ると、ラテン・ゲルマン・スラブ系の言語(ヨーロッパ語)は文法的機能を語形変化によって表す「屈折語」ですが、エスペラントは語根に接辞や語尾を添加する方式による「膠着語」(または「孤立語」)によく似ています。つまり、日本語や中国語に近いとも言えるでしょう。

 ちなみに、品詞語尾も空で考えだしたものでなく、-oはフランス語の-ionから、-aはフランス語の-ableから、-eもフランス語の-mentから採ったものだとされています。


 また、なぜ、yを捨ててjを用い、wを捨ててu~を用いているのかなと考えると思います。
岡本好次氏の「エスペラント言語学序説」によれば、これは、いわゆるローマ字(ラテン文字)を用いているヨーロッパのたくさんの国語民族語でのjやyやwの用い方を研究してみると、このように選定した方がよいという結論に達するためです。

 佐伯功介氏の「各国語におけるローマ字の使い方」というのがあります。
これは、フランス、ポルトガル、スペイン、イタリア、ルーマニア、イギリス、ドイツ、オランダ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、ポーランド、チェコ、クロアチア、リトアニア、ラトビア、エストニア、フィンランド、ハンガリーの19カ国語でローマ字が、どういう風に音を示すのか書かれています。
同書によると、jという文字は、19カ国中、13カ国が、エスペラントと同じに用いられています。
また、yをエスペラントのjの音のように用いられているのは、フランス、スペイン、イギリス、ポーランドの4カ国語にすぎません。
次に、wの方は、イギリス、ドイツ、オランダ、ポーランドの4カ国にしか存在しない文字です。しかも、wをエスペラントのu~の音のように用いられているのは、イギリスのみで、ドイツ語、オランダ語ではvの音に用いられ、ポーランド語ではvまたはfの音に用いられています。
他の言語では、uで表すのが多いため、uの音と区別するために、u~で表しているとしてます。


 話しは変わりますが、松葉菊延氏によれば、日本語をエスペラント式のローマ字で書く場合、言語学者の服部四郎博士の提案する新日本式の y と w を j と u~ に変えて書くのがもっとも良いそうです。この表記体系が、日本語の体系に一番よく馴染むということだと思います。

これによれば、

サ行 sa si su se so
タ行 ta ci cu te to
ハ行 ha hi hu he ho
ヤ行 ja i ju  e jo
ワ行 u~a i u e o
ザ行 za zi zu ze zo
ダ行 da zi zu de do
シャ行 sja si sju sje sjo
チャ行 cja ci cju cje cjo

長音は、^の代わりに母音重複を使う。

となってます。

 ただし、一般的には日本語の音韻体系は考えずに、エスペラントの音に一番近いものと考えられている表記を優先して、y --> j , sh --> s^, ch --> c^ の置き換えなどでエスペラント式ローマ字としている場合が多いようです。

 それと、エスペラントにはないアルファベットQq, Ww, Xx, Yy は、エスペラントでは、それぞれkuo, g^ermana vo (duobla vo), ikso, ipsilono という名前がついてます。


日本語の固有名詞などを、エスペラントでは、どう表した方がよいでしょうか?

 エスペラントと関連しているわけではないですが、日本語のローマ字表記は、日本のローマ字社などのローマ字論者によれば、訓令式が国際的には科学的な表記であるとしています。ヘボン式ローマ字は、英語のローマ字表記法にあわせた表記法と思われます。それに対し、訓令式ローマ字については、日本語の表記を日本語の音韻体系にあったものにしたものと考えられます。訓令式のsyu^kanよりも英語に合わせたヘボン式のshukanの方がアメリカ人に読みやすいならば、フランス人には、choucanのような表記が読みやすいことになります。つまり、英語に合わせたヘボン式が、必ずしもどの言葉にも読みやすいものとはならず、日本語に合った書き方、それが結局国際的な表記ということになると考えられます。

 ちなみに、ISO(国際標準化機構)では訓令式を1989年にISO 3602として、日本の代表的ローマ字表記としています。昭和5年、文部省が設けた「臨時ローマ字調査会」の三十数名の学識経験者により、7年間にわたる検討をした結果、ヘボン式は理論的に完敗し、それを踏まえて、政府は昭和12年、内閣訓令をもって日本の標準的なローマ字つづりを公布しました。これが、訓令式です。
今、駅名など、町にあふれているヘボン式は、占領時代のマッカーサー指令によるものです。

 日本語のローマ字表記については、実際にはどういう表記をするかは統一されていないので、自分なりの考えで表記すればよいと思います。ただし、エスペラントで書くときは、エスペラント式ローマ字表記も併記した方が親切であるとは、思います。


服部四郎氏の新日本式ローマ字とは

以下の文につきましては、
「ta meta ta phonetika」の「ローマ字のつづり」
を参考にさせていただきました。ありがとうございました。


 ヘボン式は、日本語の音韻体系を考えていない英語の音に合わせたローマ字なので、日本語のローマ字正書法としては問題外ですが、訓令式にも、「四つ仮名」(じ・ず・ぢ・づ)の問題があります。「t」は濁ると「d」となりますが、「ぢ(zi)」と「づ(zu)」については訓令式では「z」を使います。ここがヘボン式論者からも日本式論者からも非難されています。「t」と「d」の対応を考えると、「ぢ」と「づ」は日本式のように「di」「du」となりがちと思われます。

 これに対して服部四郎氏の新日本式は、「ち」「つ」を「ci」「cu」とし、タ行は「ta, ci, cu, te, to」、「ちゃ」「ちゅ」「ちょ」は「cya」「cyu」「cyo」とします。こうするとダ行の「da, zi, zu, de, do」ともきちんと対応するようになりますし、「四つ仮名」の問題はなくなります。この「c」の使い方はローマ字綴りとしては普及していませんが、日本語の音韻表記としてはよく使われています。訓令式との違いはこの「ci, cu, cya, cyu, cyo」だけです。(ただし母音と「y」の前の「ん」には「n'」ではなくて「n~ ( ~ は、n の上に付きます)」という例外はあります)
日本語の音韻体系を考えた場合、これが最良の日本語ローマ字綴りのように思われます。

 『世界言語概説 下巻』(研究社)の「日本語」の中の「文字」の項には、以下のことが書かれています。

 日本式及び訓令式のタ行音綴りに、上記のような改訂を加えると、その他もろもろの困難が消失する。即ち、70年になんなんとするローマ字論争の理論的部分に終止符を打ち得るのである。
然るに、文部省ローマ字調査分科審議会は、政治的解決法により、1952年末、訓令式を第1表として採用し、問題を未解決のまま残した。


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